人事労務ニュース/トピックス
坂本工業は従業員数40名以上のため、6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があり、7月15日までに提出することになっている。そこで、報告に当たって障害者の把握・確認するときにどのような確認方法を採ればよいか、社労士に相談することにした。
障害者雇用状況報告を7月15日までに提出する必要があるので、そろそろ書類の作成にとりかかろうと思っています。従業員の中から、障害者を把握・確認する際には、当然、プライバシーに配慮する必要があるかとは思いますが、具体的にどのようなことに注意すべきなのでしょうか。
ご質問については、厚生労働省から「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」が出ていますので、この内容を解説しましょう。障害者を把握・確認する方法としては、原則として雇用している従業員全員に対して申告を呼びかけることとされており、例外的に個人を特定して照会を行うことができる場合が定められています。
原則、従業員全員に向けて呼びかけることが必要なのですね。具体的にはどのような方法があるのでしょうか?
メールや書類の配布など、画一的な手段で従業員からの申告を呼びかけることになります。適切な事例としては、例えば以下のものがあります。
- 従業員全員が社内LANを使用できる環境を整備し、社内LANの掲示板に掲載する、または従業員全員に対して一斉にメールを配信する。
- 従業員全員に対して、チラシ、社内報等を配布する。
- 従業員全員に対する回覧板に記載する。
不適切な事例としては、休憩室にのみチラシを置いておくことや障害者と思われる従業員のいる部署に対してのみチラシを配布すること等があります。
なるほど。意図せず偏った呼びかけにならないように注意が必要ですね。
そのほか、例外はあるのですが、会社が他の目的で入手した情報を根拠に照会を行うことも不適切になります。例えば、所得税の障害者控除を行うために提出された書類を根拠にしたり、病欠・休職の際に提出された医師の診断書を根拠にしたりすることです。
会社としては、会社に報告した情報として扱ってしまいそうですが、やはり問題なのですね。
そうですね。さて、申告を呼びかけるに話を戻すと、呼びかけの際に明示する事項として以下の8つがあります。
- 業務命令として、この呼びかけに対する回答を求めているものではないこと
- 障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請のために用いるという利用目的
- 2の報告等に必要な個人情報の内容
- 取得した個人情報は、原則として毎年度利用するものであること
- 利用目的の達成に必要な範囲内で、障害等級の変更や精神障害者保健福祉手帳の有効期限等について確認を行う場合があること
- 障害者手帳を返却した場合や、障害等級の変更があった場合は、その旨会社に申し出てほしいこと
- 特例子会社又は関係会社の場合、取得した情報を親事業主に提供すること
- 障害者本人に対する公的支援策や企業の支援策についても、あわせて伝えることが望ましい
1の「業務命令として、この呼びかけに対する回答を求めているものではないこと」はどのような意味ですか?
業務命令となると、呼びかけに必ず対応しなければならないと感じる従業員も出てくるかと思います。自らの障害に関する情報が、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請のために用いるという利用目的に同意する場合だけ、呼びかけに対して回答すればよいということを、しっかりと伝える必要があります。
従業員が知られたくない障害の情報を、会社が強制して出させることはできないということですね。
そうですね。4について補足すると、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請は、毎年度1回行うことから、把握・確認した情報を毎年度用いることを、あらかじめ本人の同意を得ておくと、個人情報の利用について確認作業の負担が減ります。注意点として、精神障害者保健福祉手帳の場合は、有効期限が2年間となっていますので、更新されたか否かの確認が必要です。
なるほど。情報に変更がないか確認し、会社側で把握している情報を更新しておく必要があるということですね。
この把握している情報の更新については、必要最小限に行うことが求められています。例えば、さきほどの精神障害者保健福祉手帳については、前回確認した有効期限を過ぎた最初の障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金・報奨金の申請のいずれかを行う際に、手帳の更新の有無や更新後の手帳の有効期限について確認を行うこととされています。
障害者の把握・確認、そして情報の更新の際には、注意すべき点がたくさんありますね。また分からないことが出てきましたら、質問したいと思います。
ここでは、上記の障害者を把握・確認する方法としてとり上げた、例外的に個人を特定して照会を行うことができる場合について補足しましょう。これは、障害者である従業員本人が、職場において障害者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、会社に対し自発的に提供した情報を根拠とする場合は、その個人を特定して障害者手帳等の所持を照会することができるとしているものです。参考リンクにあるリーフレット「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要」に、個人を特定して照会を行う根拠として適切な例や照会を行う際の注意点等もとり上げられています。併せて確認しておくとよいでしょう。
■参考リンク
厚生労働省「事業主の方へ」
厚生労働省「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要」
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。